登山者検診ネットワークとは

日本登山医学会が代表的山岳旅行会社と一緒に取り組む医療機関ネットワークです。

現在、高所登山・高所旅行へ登山経験が浅い方や登山をしたことがない方でも行けるようになりました。しかし、高所における医療事情や交通事情は日本の都市部とはかけ離れたものです。特に搬送においてはヘリコプターを要することが多く、とても大がかりなものになります。また、高所という低酸素環境や、医療機関までの長い搬送時間によって、日本では何とか救命できる疾患であっても高所では助けられないことがあります。

 そのため、日本登山医学会および高所登山を専門に取扱う旅行会社によって、標高3,800m以上で宿泊する高所登山・高所旅行に行かれる方々に対し、出国前検診を案内し実施する、登山者検診ネットワークが組織されました。この検診では、高所での健康状態悪化を予防することを目的に、すでに治療すべき疾患があるかどうか、高所という低酸素環境において悪化する疾患があるかどうかを診させていただいております。

 登山者検診ネットワークに参加している医療機関では、共通の検査項目の検診を提供しています。検査項目は、身長、体重、腹囲、血圧、心電図、胸部レントゲン写真、肺活量などの呼吸機能検査、血液検査、尿検査です。この検査結果と受診者にご記入頂いた問診票、さらに医師による診察結果とを合わせ、高所経験を有する登山医学会会員医師が、受診者の健康状態および受診者が希望されている高所登山・高所旅行における危険度を判定します。そして、個別に高所での健康状態に関するアドバイスを行います。
 また、発行される診断書は日本語だけでなく、英文併記となっているため、万一渡航先で医療機関を受診される際には、現地医師がその受診者の健康状態を把握することに役立ちます。

 ところで、検診では高所特有の疾患である急性高山病・高所肺水腫・高所脳浮腫を予測することは困難です。そのため、標高3,800mに日本国内で最も近い富士山頂まで行かれたことのない方には低酸素室の利用を勧めることがあります。
 さらに登山者検診ネットワークでは検診を行うだけでなく、検診を受けて高所に行かれた受診者の方々が現地でどのような健康状態であったか、問題がなかったか、情報提供をいただいております。現地で各受診者に健康状態チェックシートにご記入いただき、出国前の健康状態と照らし合わし、同じ健康状態の方に今後どのようなアドバイスが可能か検討しております。

 この登山者検診ネットワークのために、日本登山医学会では日本登山医学会登山者検診ネットワーク実行委員会を設置し、旅行会社では高所旅行取扱業者会を設立しています。高所旅行取扱業者会には現在、アルパインツアーサービス株式会社、ヒマラヤ観光開発株式会社、株式会社ウェック・トレック、株式会社風の旅行社、株式会社アドベンチャーガイズ、株式会社道祖神の6社が参加されています。

 安全な高所登山・高所旅行のために登山者検診ネットワークをご利用いただければ幸いです。