国際山岳連合医療部会による提言集
The Consensus Statements of UIAA Medical Commission

原文索引:http://www.theuiaa.org/medical_advice.html

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前日山協UIAA派遣役員 中島道郎

§1 UIAA (Union Internationale des Associations D’Alpinisme)とは

この文書を読まれる読者の多くは、何らかの『山岳会』に属しておられるものと想像するが、その各山岳会が都道府県単位で纏められたものが『各都道府県山岳連盟』、それの全日本的組織が『日本山岳協会(日山協、Japan Mountaineering Association, JMA)』、そして、全世界規模でそれを纏めたのが『Union Internationale des Associations D’Alpinisme (UIAA) 』である。本来はフランス語なのに、日本ではそれをユーアイエーエーと英語読みで呼び、正式な日本語名称を筆者は知らない。多くの人がそれを「国際山岳連盟」と呼んでいるが、しかし上記のとおり、「連盟」は日本では都道府県単位の組織の呼称である。世界規模の組織を都道府県レベルの組織呼称で呼ぶのはおかしい。筆者は早くから,これは『国際山岳連合』と呼ぶべきだと主張してきている。

§2 UIAA Medical Commission (UIAA MedCom) とは

UIAAという組織内には沢山のCommissionがあり、Medical Commissionもそのひとつであるが、これも正式日本語名称はない。医療委員会と呼ぶ人もあるが、それは不適当である。このCommissionというのは、外部組織たる各国山岳協会からその仕事を委任されて派遣された人たちによる組織であり、一組織内部の委託人事による特定作業人集団、英語でCommittee、とは違うのである。筆者はだから、これは『医療部会』と呼ぶよう提唱する。以上が、本稿のタイトルを『国際山岳連合医療部会』とした所以である。筆者はこの役を、Medical Commission発足の1984年から務めてきたが、昨年からこれを堀井昌子博士に替わって頂いた。本医療部会は毎年1回例会を持ち、登山者の健康保持・事故防止・障害疾病の治療等に関する新しい知見の情報交換ないし提言などを行ってきた。現在の会長はネパールのDr. Buddha Basnyat である。

§3 今回の提言に至った経緯について

UIAA MedComではその発足以来、散発的にさまざまな提言がなされてきた。筆者はその都度日本山岳会の月刊会報「山」にそれを紹介してきた。最近それが、ある纏まった形で万国共通の登山指針として制定しようではないか、という気運に変ってきた。
 それは、2007年11月、スコットランドのアビーモアで開催されたUIAA 年次例会で、ドイツのDr. Thomas Küpperが、“Medical Recommendations of UIAA MedCom”という形で、提案したのが発端である。以後、MedComメンバーの間で、e-mailによる討論が重ねられて、翌2008年7月6日、彼の名において、『Official Standards of UIAA MedCom』として発表されたのだが、この“公認基準”という語感がUIAA中枢で問題になったのか、最近のUIAAのHPにはこの語は見当たらず、そこに示されるAdvice and Recommendation とある画面の各項目説明文の最後に見られるLearn more の文字をクリックすると"Consensus Statements” と、Official Standardsから変更された表題で出てくる。日本語表記上、直訳の“合意声明文”は、いかにも翻訳調で納まりが悪く、日本語の語感としては“公認基準”の方が遥かにいいが、ここでは単に“提言集”としておく。しかし、この訳文各章の表紙につけた原文表題の方は、敢えて訂正せず、Official Standardsのまま残しておくことにする。

§4 “提言集”の更新について(2014.05.30)

「国際山岳連合医療部会による提言集」 The Consensus Statements of UIAA Medical
Comission はその邦訳が中島道郎先生のご苦労により2009年に当ホームページに掲載されました。上述の通り、この国際山岳連合医療部会は年一回例会を持ち、登山者の健康保持・事故防止、障害・疾病の治療等に関する新しい知見の情報交換、提言などをおこなっています。最近ではキリマンジャロ登山を安全に成功させるために認識しておくべきこと、あるいは、登山における薬物の使用をドーピングの観点から考えることなどが議論されています。
堀井はこの部会の連絡員を中島先生から引き継ぎ、2009年から2012年までその任にありました。この間に、例会において、新たなテーマで書かれた論文がコンセンサスペーパーとして確認されたものが8編、既存の論文が著者によってアップデートされたものが4編ありました。新たな論文8編のタイトルの紹介と、うち2編の邦訳(その20、その21)、およびアップデートされたもの4編(その3,5,6,7)の訳者による邦訳をこのたび掲載していただくこととなりました。

 以上、邦訳の労を取られた中島道郎、梶谷 博、夏井正明、貫田宗男、上小牧憲寛先生各位、ならびに広報担当の稲田千秋先生に感謝いたします。 
(堀井 昌子)

§5 “提言集”の内容について

今迄のところ、提言集は(その1)から(その16)に及んでいる。ここでは、そのうち、(その13)まで日本語化している。

その13編の表題(テーマ)は以下の通りである。(翻訳担当者名:敬称略)
(その1)LinkIcon健全登山4×4法則(中島道郎)
  登山初心者に必要な最も基本的な知識16項目
(その2)LinkIcon急性高山病、高所肺水腫、高所脳浮腫の現場での応急処置(上小牧憲寛)
  高山病は予防が最も重要であり、その方法、次いで診断と治療について解説。
(その3)LinkIconポータブル高圧チャンバー(中島道郎)
  高山病患者の現場治療装置。使用方法、長所・短所、機種、などの解説。
(その4)LinkIcon山中における栄養問題(夏井正明)
  長期間の遠征旅行中、いかに体重減少を防ぎ体力を温存するかを考える。
(その5)LinkIcon旅行者下痢(梶谷博)
  旅行者下痢は遠征登山における最重要医療問題。水分・電解質の喪失で登山遂行能力が減退する。
(その6)LinkIcon山岳域における水の消毒(夏井正明)
  山中での水の消毒法各種の利点・欠点をあげ、安全な水の“地球に優しい”作り方を説明。
(その7)LinkIcon公募トレッキング・登山隊の質を判断する方法(貫田宗男)
  商業登山隊参加者数も事故数も増加中。潜在するリスクを計画段階でいかに見分けるか、その方法。
(その8)LinkIcon医師のための、遠征・トレッキングの健康管理契約書雛形(大森薫雄)
  随行医師は単なる参加者の健康相談相手ではない。診断と治療に責任が伴う。その権利と義務を解説。
(その9)LinkIcon小児と高所(瀬戸嗣郎)
  北米や欧州ではかなり多くの家族が子供たちを連れて高い所に登っている。その場合の医学的忠告。
(その10)LinkIcon寒暑両極端温度と医薬品(堀井昌子)
  遠征中に遭遇する極端な高温・低温による医薬品の影響、山中での取扱法、医薬品の副作用の解説。
(その11)LinkIconハイキング杖(中島道郎)
  登山にハイキング杖を使うことの利益と不利益、正しい使用法。
(その12)LinkIcon女性と高所(堀井昌子)
  女性に対する高所影響、月経周期や妊娠女性に対する高所影響とか合併症の問題等。
(その13)LinkIcon何か持病のある人が登山する場合(上小牧憲寛)
  高所の、喘息・心臓疾患・偏頭痛などへの影響、医療施設から離れている、などの条件考慮の問題。
(その14) Contraception at Altitude (2009)
  高所における避妊
(その15) Work in Hypoxic Conditions (2009)
  低酸素環境における作業
(その16) Travel to Altitude with Neurological Disorders (2009)
  神経学的な症状のある人が高所に行く場合
(その17) LinkIconクライミングの外傷分類
  登山およびクライミングの外傷分類。
(その18) Travel at High Altitude (2008)
   Medexのメンバーが作成し、UIAAがサポートしている。小冊子となっており13か国で出版。
(その19) Risk of Transmission of Blood Borne Infections in Climbing (2010)
(その20) LinkIconエキスペデイション登山における眼科的障害(堀井昌子)
   Eye Problem in Expeditions (2010) :遠征隊が遭遇する眼科的諸問題。
(その21) LinkIcon心血管系の病気を持つ人が登山をする場合(堀井昌子、上小牧憲寛)
   People with Pre-existing Cardiovascular Conditions Going to the Mountains (2012)
  何か心血管系の病気を持つ人が登山をする場合

§6 謝辞

最初に、2008年度日本登山医学会総会の席でこの翻訳事業を披露した際、真っ先に事業参加を申し出られ、本稿に原稿をお寄せ下さった執筆者、大森・上小牧・夏井・貫田・堀井・瀬戸・梶谷先生各位に感謝申上げる。また、本稿をインターネットに載せるについては、日本登山医学会事務局長・増山茂先生のご助言・ご尽力が無くては実現しなかった。ここに記して深甚の謝意を呈する。