Update 山小屋関係者の皆様へ  

 「新型コロナウイルス感染-山小屋における対応の目安」

「小屋開きの延期」等による感染対策への多大なるご協力に感謝いたします。
 はじめに、新型コロナウイルス感染対策への多大なるご協力に、コロナ禍への対応に苦慮している医療施設のメンバーとして心より御礼申し上げます。
 現在、緊急事態宣言は解除されていますが、ワクチンや特効薬はなく、抵抗力を持つ人も1%未満との報告からは、まだ安心できる状況ではなさそうです。ここでは山に親しむ医師の視点で現況下における山小屋での対応の目安を示しますが、この公開は決して山小屋に宿泊する登山を推奨しようとの意図ではありません。
 ハイシーズンの山小屋が典型的な"三密"の状態を余儀なくされて来たのは周知の事実ですが、その状況では症状のない感染者が1人居合わせるだけでも大きなクラスター(患者集団)が発生すると推測されます。その方々が、やはり症状のないまま個々の地元に感染を持ち帰り、そこでの蔓延が起きれば、必ずや社会問題となり、行政から広範なそして長期の「山小屋宿泊禁止」が勧告されることも考えられます。
 医師の視点からは山の上での重症患者の発生も怖いのですが、山に親しむ者としては、前述のような事態はある意味でさらに怖く、日本の登山文化が大きなダメージを受けることすら考えられます。
 入山中に不調をきたした登山者に適切な対応をするのは当然ですが、山を愛しその受け継がれてきた心を守ろうとする者の集団としては、このクラスターの発生だけは絶対に阻止しなければなりません。そのような意図から、以下に随分と仔細な内容を挙げておりますことをどうぞご理解下さい。
 なお、既に多くの、プロが揃っているはずの医療施設でもクラスターが発生している状況から推し測れますように、各項目の記載内容は最低限守られるべき事項とお考えいただき、是非慎重な対応をよろしくお願いいたします。

【基本事項】
  1. 「山小屋と従業員を守ること」を一番にお考え下さい。
    • 最も重要で、同時に難しくもあるのは「従業員を感染から守ること」です。「疾患の説明」にもあるように、この感染症は感染後に最長14日(平均5日)ほど症状のない期間があり、しかも早い時期から他の人に感染させるようになります。数日間の入山中にずっと無症状であった感染者が山小屋内で他の人にうつしていることもあり得ます。その意味では、数日間で山から離れる登山者よりも長期に山の中で過ごし、多くの登山者と接する従業員の方が遥かに危険であることをご理解下さい。

  2. 1人の感染者も出さない・全従業員の命を守る を最優先させて下さい。
    • 山小屋の環境では、もし従業員の誰か1人が感染すると、短期間に従業員全員に感染が広がると推測されます。しかも、症状の出始めから短時間で悪化するとの指摘もあり、高地ではさらに急激な呼吸状態の悪化もあり得ます。必然的に山小屋の機能は停止しますし、命の危険もあります。1人の感染者も出さないこと、従業員全員の命を守ることを是非とも最優先にお考え下さい。

  3. 山小屋の様々な開き方についてご考慮下さい。
    • 山小屋の立地等によっては不可能な場合もあり得ますが、宿泊施設として三密(密閉、密集、密接)が避けられない場合には、売店のみ営業とか食事提供のみ、テント場のみ運営などの選択肢についてもご検討下さい。

【小屋開きの前に】
  1. 従業員と登山者の接点を最小限にする工夫をしましょう。
    • 受付や売店では透明なアクリル板等のシートで登山者と受付の間に隔壁を作りましょう。顔の位置より極力離した下方に料金や食事券等の受け渡しをする少しの隙間を確保するのが一般的です。
    • 食堂での食器の受け渡し場所にも類似の工夫をご検討下さい。

  2. 従業員間においても三密を避けられるようなスペースを確保しましょう。
    • 万一従業員の誰かが感染する可能性についても念頭に置き、従業員間での感染を回避できるような従業員のスペースを確保しましょう。

  3. 充分な防御具と手指衛生のための物品を準備しましょう。
    • 従業員が日常で使用する防御具としてはマスクとフェイスシールド(ゴーグル・保護メガネなど)、使い捨ての手袋(液体を通過させないもの)をご準備下さい。フェイスシールドや防御メガネはメガネの上からも使用できるので便利です。また、フェイスシールドは感染疑いの登山者と接する可能性を考慮して、透明版の部分だけでも使い捨てにできるものが望まれます。
      • ※ ここでいう「ゴーグル」は登山用のゴーグルではなく、医療や科学実験の際に目を保護する目的で使用されるメガネ型のもの(メガネでは防ぎきれない横からの飛沫を遮蔽できる形状になっている)を指しています。その方が長時間使用していても疲れないようです。なお、マスクと併用しますので曇り止めが付いているものをお勧めします。
      • ※ フェイスシールドは透明度の高いクリアホルダーなどを利用し、安価に自作できるものもしばしば使用されています。
    • 2m以内の距離で不特定多数の人と対応する受付、売店、食堂などでは、透明板などを介しても、マスクとフェイスシールド(ゴーグル・保護メガネなど)は必須とお考え下さい。
    • 手指衛生のためには石鹸(ハンドソープ)と消毒用アルコール、室内の消毒用としては消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウム溶液をご準備下さい。
      • ※ 次亜塩素酸ナトリウム溶液は塩素系漂白剤を薄めて作ることができます。後述しますが、通常の清掃には0.05%、トイレや感染疑いの方が使用した部屋は0.1%での使用をお勧めします。直接触れると皮膚が荒れますので、必ず手袋を着けて扱って下さい。目に入ると失明の危険がありますので使用する際には必ず目を保護し、また液が飛び散らないよう十分に注意して下さい。
      • ※ アルコール消毒液は次亜塩素酸ナトリウムよりは障害は軽いと考えられますが、やはり必ず目を保護してお使い下さい。
      • ※ 次亜塩素酸ナトリウム溶液は、吸引すると有害ですので絶対に噴霧はしないで下さい。また、酸性のものと混ざると有毒ガスが発生しますので十分に注意し、換気の良い状態でお使い下さい。市販の漂白剤に書かれている「使用上の注意事項」もよく読んで必ず守って下さい。
    • 感染が疑われる登山者に対応するために、全て使い捨ての「マスク・手袋・袖付きエプロン・フェイスシールド」を準備しましょう。発熱・咳などの呼吸器症状を持つ感染が濃厚な登山者の場合は、1人に対してこれらを1組ではなく、その登山者に1回接する度に捨てるべき物とご理解下さい。

  4. 宿泊者数を制限し、完全予約制の導入についてもご検討下さい。
    • 密集・密接を避けるためには1日の宿泊者数を制限する必要があります。相互に十分な距離が取れるような人数をご検討下さい。ここで、充分な距離とは登山者2人が両者とも「大の字」に手を伸ばして届かない距離とお考え下さい。
    • もしもコロナ陽性の登山者が同室で宿泊した場合は、他の登山者には極めて高率に感染するとお考え下さい。
    • 山小屋での完全予約制は難しい側面もありますが、感染防御の観点からは是非前向きにご検討下さい。
    • 天候等により計画を変更せざるを得ない登山者が出現することも想定し、予備の部屋についてもご考慮下さい。
    • 予約時に「宿泊前14日以内の発熱があれば登山をしないように」伝えて下さい。
    • 人数制限や完全予約制については、是非各山小屋のHPや登山口等に掲示し、予定外の登山者が訪れるのを防いで下さい。

  5. 食堂や宿泊室を少人数で使用できるよう工夫しましょう。
    • 食堂や談話室の椅子を半分程度取り除いて登山客が密集しないように、また向かい合う配置にならないよう工夫して下さい。テーブルに相互の顔が見えない高さの衝立を作ることもご検討下さい。
    • 宿泊室では登山客同士の間に少なくとも布団1枚分の間隔を空け、概ね2畳に1人の宿泊者数とお考え下さい。もしもそれが難しいなら、互いに密接しないように間に十分な大きさの衝立を立てる等の工夫をし、それでも最低1mは離すようにしましょう。

  6. 感染が疑われる登山者に対応するスペース・手順を必ず事前に決めておきましょう。
    • 感染が疑われる登山者を分けて宿泊させるスペースを確保しておきましょう。扉が閉まる部屋で、一般通路からその部屋に入る際に別の部屋を通って入る部屋が望ましく、それが不可能な場合にはその登山者を寝かせる場所から扉まで3m以上の距離がとれる広さの部屋にしましょう。
    • 袖付きエプロンやフェイスシールドなどが容易に捨てられるよう捨て口が40×40cm以上の大きなゴミ箱(そのまま捨てられる段ボールの箱が望ましい)の中に大きなゴミ袋を2重に入れていつでも使えるように準備し、入り口近くに配置しておきましょう。
    • この部屋を使用した後の清掃(消毒)作業を容易にするために、極力家具等を置かないことをお勧めします。
    • 感染が疑われる登山者への対応手順と接し方(自己防御の仕方)について、事前に従業員全員で確認しておきましょう。

  7. 従業員の間で感染防御の方法を周知しましょう。
    • 主な感染経路である「口・鼻・喉の粘膜と目」の防御を念頭に行動することを小屋開きの前から習慣付けるようにしましょう。
    • 感染防御の基本は従業員全員が知っておくべきですが、少なくとも登山者に接する方はさらに幅広い防御策についても熟知しておく必要があります。


【感染対策の基礎】
  1. 感染の防御策について知りましょう。
    • 主な感染経路は口・鼻・喉の粘膜と目です。空中を舞う「ウイルスを含んだエアロゾル」を吸い込んだり、ウイルスの付いた場所に触れた手で顔を触ったりすることで感染します。つまり、他の人からの飛沫を回避することと、人との直接接触や家具・機材を介した間接接触を避けることが重要です。これらを理解し、常に防御を念頭に行動しましょう。

  2. 従業員は手洗いを徹底し、登山者にも徹底してもらいましょう。
    • 接触感染を予防するためには「徹底した手洗い」が必要です。ドアノブや手すりなど多くの人がよく触れる場所に触ったそのままの手で目・鼻・口など顔を触らないようにして下さい。石鹸を使いしっかり泡立てて指先・指の間・爪の先・手首を30秒以上洗うことが感染防止に有効です。手洗い水の十分に使えない山小屋では次に示す消毒用アルコールを頻回にしっかり皮膚に擦り込むように使用して下さい。
    • コロナウイルスは消毒用アルコールによって感染力が失われます。従業員は手指衛生用に携帯型の消毒用アルコールを常に持っていると便利です。ただし、アルコールは可燃性ですので、厨房に立つ時、火を使った作業をする時は火から十分に離しておくことを忘れないで下さい。また、自炊室に配置する場合は可燃物としての安全性にも十分注意して下さい。

  3. 従業員は常に自己を防御する行動をしましょう。
    • 登山者にもマスクの着用を徹底してもらって下さい。
    • マスクを着けていない登山者や不完全なマスクの着け方(後述)をしている登山者とは原則話をしないようにしましょう。時に、マスクを着けていても自分が話をする時にそれを除けて話す方がいますが、そのような方についても同様です。
    • マスクを着けていない登山者や不完全なマスクの着け方(後述)をしている登山者と話すときは、2m以上の距離を空けましょう。またゴーグルを用いた目の保護も忘れないで下さい。

【従業員の防御具】
  1. 登山者に接する従業員は必ずマスクを着用し、登山者にも依頼して下さい。
    • マスクの使用は他の人への感染防止が主な目的ですので、従業員がマスクを着けていると登山者に安心感を与えます。
    • マスクの着用により喉の乾燥を防ぎ、感染防御機能を高めることができます。また、鼻や口を覆うことで不用意に顔を触る機会を減らせるという効果もあります。
    • ただし、せっかくマスクを使っていても、正しく鼻・口が覆えていないような不完全な装着では効果が落ちますのでご注意下さい。(下図を参照)

  2. 必要に応じてゴーグルなどで目の保護をしましょう。
    • 受付や厨房等から出て、マスクを着けていない登山者や不完全な着け方をしている登山者と接する可能性がある時にはゴーグルを着用しましょう。空気中に漂うエアロゾルからの感染やウイルスの付いた手で無意識に目の周りを触って目から感染することを防ぎます。
       
         (図:マスクの着け方)
      (この図をダウンロードし、拡大印刷して小屋内に掲示していただいても結構です)

【受付・売店業務】
  1. 予約の際には入山前の行動予定・症状の有無を確認しましょう。
    • 予約の際には、入山の直前2週間に海外へ渡航する予定や感染者多発地区(都道府県等)への訪問の予定がないかを確認しましょう。また、発熱・咳などの呼吸器症状や味覚嗅覚異常の有無を確かめ、あれば登山は取り止めることを必ず確認して下さい。
    •  前項に該当する方については、登山や直前の行動に関して再考を促しましょう。

  2. 予約の際に、必ず個人認証とマスク・インナーシーツ等を持参するように伝えて下さい。
    • 確実に個人が認証できる免許証やマイナンバーなどを必ず持参するように伝えて下さい。感染症が発生した場合に、濃厚接触者を正確に把握し感染拡大を防止する目的であることも説明しましょう。
    • 山小屋内では食事の時以外は常にマスクの着用が必要であること、そのために個人用のマスクを持参するよう伝えて下さい。
    • インナーシーツやシュラフの持参は、寝具を介した間接的な接触を防止する目的であることも伝えて下さい。

  3. 従業員は常時使い捨ての手袋を用いましょう。
    • 受付・売店業務では常時使い捨ての手袋を着けて金品の受け渡しを行い、自分の顔に触れる時は必ずその手袋を脱ぎましょう。手袋を脱ぐ際に手袋の外側を触ると手袋を着けた意味がありませんので、手袋の内側が外に反転するように脱ぎ、そのまま廃棄するのが安全です。

  4. 小屋での宿泊受付の時に行動歴・症状を確認しましょう。
    • 宿泊受付では、直前2週間に感染者多発地区(都道府県等)への訪問歴、海外への渡航歴がないか、発熱や咳などの呼吸器症状・味覚嗅覚異常がないかを確認しましょう。

  5. 宿泊受付では、必ず個人が特定できるように個人認証を確認しましょう。
    • 感染者が発生した場合に備え、濃厚接触者や山行経路(他の山小屋の利用歴)を把握できるように、免許証やマイナンバーなどの確実な個人認証法で確認をしておきましょう。

  6. 受付後の登山者には、手指消毒とその場でのマスク着用をしてもらって下さい。
    • 宿泊受付の際に、登山者には消毒用アルコールを用いた手指消毒をしてもらいましょう。
    • 登山者がマスクを着けていない場合は、その場で着用してもらいましょう。この時、鼻・口・顎までを広く十分に覆うように指導して下さい。
    • 登山者自身がマスクを着用することは登山者同士の感染防止に役立つこと、話をする時もマスクを着用したままで話すことを説明して下さい。

  7. 受付で登山者の体調を確認(体温測定・症状の有無の確認)して下さい。
    • 体調に不安を抱えたまま山に来る登山者は少ないと思いますが、受付での体調確認は有効と思われます。体温を測定し、症状の有無を確認することは、登山者の「無理をしない」との自覚を高めることにつながります。
    • 症状のある方には、時間が許せば強く当日の下山を勧めて下さい。遅くとも翌朝には下山することを約束してもらいましょう。感染が疑われる登山者であればこの方が泊まった部屋、行った場所は全て感染された場所ということになり、後述するように後で徹底した消毒が必要となります。

【宿泊室】
  1. 宿泊室こそ三密を避けましょう。
    • 睡眠中は無意識の内にマスクを外すこともあり、高地においては就寝中のマスク着用を必ずしも推奨できません。したがってエアロゾルによる感染の危険性が高まることになりますので、宿泊室こそ厳密に三密にを避けましょう。
    • ドアや出入り口を極力開放し、それが不可能なら宿泊室の換気を頻回に行うなどをして密閉を避け、飛沫感染を防止しましょう。
    • 1部屋に宿泊する登山者数を大きく削減し、密集を避けましょう。
    • 登山者同士が互いに手を伸ばしても届かない程度に離れて寝られるよう布団の間隔を十分に取り密接を避けましょう。

  2. 持参した寝具の使用や寝具の不使用期間を設けるなどの工夫をしましょう。
    • 持参してもらったインナーシーツやシュラフを使用し、他の人との間接的な接触を避けてもらいましょう。予約時に必ず持参についてお伝え下さい。
    • 登山者が直接寝具を使用する場合は、寝具に付着したウイルスが感染性を失う期間を考慮し、寝具をローテーションして数日に1回ずつ使用することをお勧めします。また、消毒と晴天時には天日干しもするようにお願いします。

【食堂・談話室】
  1. 食事の時は特に注意して三密を避けましょう。
    • マスクを外さなければならない食事の時は、就寝時と同様に感染の危険性が高まる時です。頻回に換気をして密閉を避け、テーブルやイスの間隔を空けて密集・密接を避けましょう。
    • 1回の会食者数を減らすために、食事のローテーション回数を増やしましょう。

  2. 配膳時の密集・密接・間接的接触の回避にも工夫が必要です。
    • 配膳前・配膳時の行列についても間隔を空けるよう工夫して下さい。
    • ご飯やみそ汁をよそう杓文字・お玉杓子、お茶用の急須や調味料入れ等は多くの登山者が間接的に接触する場所です。特に2杯目3杯目をよそう際には杓文字等がお椀に付くこともあります。従業員の方で最初から注ぎ分け、みそ汁はおかわり無し、ご飯の2杯目以降はおにぎりを渡す、あるいはご飯の大中小を選んでもらう等の工夫をしましょう。

  3. 登山者が向かい合っての食事、話しながらの食事をしないよう注意して下さい。
    • 登山者には「互いに十分な距離をとって着席する」、「向かい合って食事をしない」、「話をしながら食事をしない」を徹底するように注意して下さい。

  4. 「朝食は全員弁当」も有力な候補とお考え下さい。
    • 朝食を全て弁当にして食堂を使用しなければ、そこでの感染の危険性は大きく下がります。状況によっては、夕食・朝食ともに弁当という選択肢もあります。従業員の安全のために、是非とも真剣に考慮下さい。

  5. 食器は通常通り洗えます。
    • 食器は通常の洗剤を用いて十分に洗浄して下さい。ただし、下膳や洗浄を担当する方が下膳・洗浄の途中で自分の顔を触れるようなことがあると、感染する可能性があります。
    • 水が飛び散ることもありますので、目・鼻・口は必ず防御して行って下さい。汚染した水が袖に飛び散り、そこで顔を拭うと感染する可能性があります。必要に応じて長袖のエプロンを使用しましょう。

  6. 食器の持参や夕食を弁当にする等についてもご検討下さい。
    • 配膳・下膳時の登山者同士・登山者と従業員の接触を最低限にする観点から、登山者に食器を持参していただくのも一つの考え方です。個々の山小屋の事情も考慮し、全ての食事を弁当にするという選択肢についてもご検討下さい。

  7. 食堂・談話室の使用制限をご検討下さい。
    • 食事以外での食堂の使用を控える、談話室などの使用を制限するなども密集・密接を避ける一手段としてご検討下さい。

【清掃業務】
  1. 手がよく触れる場所を消毒して下さい。
    • 登山者や従業員がよく手で触るドアの取っ手や階段の手すりなどは消毒用アルコールか0.05%次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて、こまめにしっかり消毒して下さい。登山者が多い時期には、1日に何度も消毒を繰り返すことをお勧めします。
      • ※ 次亜塩素酸ナトリウム溶液・アルコール消毒液の使用に関する注意事項は【小屋開きの前に】の3を参照してください。

  2. トイレ掃除はタイミングを考え、十分自己防御をして行って下さい。
    • 感染者から排出された屎尿中にはウイルスが生息しています。トイレ掃除の際は症状が出る前の感染者が使用していた可能性を念頭において、使い捨ての「マスク・手袋・袖付きエプロン・フェイスシールド」を使用し、清掃後これらの防御具は全て破棄しましょう。
    • トイレを消毒する際には、消毒用アルコールか0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液をご使用ください。
    • 清掃のタイミングはそのトイレが使われた直後を避け、エアロゾルが落下する60~90分間トイレの使用を止めて、その後清掃をする方が安全です。決して掃除機は用いないで下さい。空中にエアロゾルを巻き上げ感染の危険性を高めます。

  3. 廃棄物は素手で触れずに、ゴミ袋の口をしっかり閉じて廃棄して下さい。
    • 登山者から出た容器・空き缶等の廃棄物はビニールの袋に入れ、しっかりと口を閉じて廃棄しましょう。37℃の環境では4日間で感染性を失うウイルスも4℃では21日以上感染力を持つとの報告もあり、山の上では通常よりも長く感染力を保持し続けていることが予測されます。これらの廃棄物を決して素手では触らないようにして下さい。
    • 廃棄物を圧縮して廃棄したいところではありますが、中の空気を抜く動作により、袋の中のエアロゾルが自分に降りかかる可能性についてもご注意下さい。

【感染を疑われる登山者への対応】
  1. 感染を疑う登山者は、山小屋では「感染者」として扱いましょう。
    • 山小屋で新型コロナウイルス感染症を正しく診断することは、その場に医師がいたとしても不可能です。他の登山者や従業員を感染から守るためには、その登山者を「感染者」として対応する必要があります。

  2. 下山が可能ならすぐに下山させましょう。
    • 山小屋が下山口までそう遠くなく、時間的にも、また本人の体調や共に下山してくれる仲間がいるなど、下山が可能な状況であれば、すぐに下山させて下さい。この感染症は、症状の出現から重症化までの時間が短いことも報告されていますので、安全に下山できそうであれば、是非それを勧めて下さい。高度を上げる、登山口からより遠い方角へ向かうという行動は絶対に止めさせて下さい。

  3. 宿泊させる場合は、必ずドアが閉まる個室に入ってもらいましょう。
    • 他の登山者への感染を防止するために、必ず個室を使用し、その部屋のドアは常時閉めておきましょう。
    • その部屋には、鼻水や痰の付いたティッシュを捨てられるビニール袋などを布団の近くに準備しておいて下さい。

  4. トイレ以外はその部屋から出ないようにしてもらって下さい。
    • 他の登山者との接触は極限まで少なくする必要があります。トイレ以外には絶対にその部屋から出ないように指導して下さい。
    • 登山者が部屋を出られない分、従業員が時々登山者に声をかける必要がありますが、その際にもドアは絶対に開けず、外から声を掛けるだけにしましょう。

  5. トイレに行くときは必ず不織布製の使い捨てマスクを正しく着けてもらいましょう。
    • その登山者がトイレに行くときは、不織布製の使い捨てマスクを、必ず鼻から口、顎までの全体を覆うように正しく着けてから出てもらいましょう。
    • その登山者が使用したトイレは使用後60~90分、他の登山者を入れないようにし、防御具を着けた従業員がトイレ内を十分消毒した後で使ってもらいましょう。

  6. 同行者には、当該登山者とも他の登山者とも異なる部屋を使用してもらいましょう。
    • 一緒に行動していた同行者は「濃厚接触者」であり、この方達も既に感染している可能性があります。症状のない感染者から他の登山者や従業員に感染が広がることもありますので、仮に4名のパーティ(同行者3名)であった場合、その同行者3名は同じ部屋でも構いませんので、感染を疑う登山者とも他の登山者とも異なる、やはりドアが閉まる部屋に入ってもらいましょう。
    • この同行者についても、他の登山者との接触は極力避けるべきで、感染を疑う登山者と同様に小屋内での行動を制限して下さい。

  7. 感染を疑う登山者・同行者共に食事は弁当とし、中で食べてもらいましょう。
    • その登山者や同行者を食堂等へ入れることはできませんので、使い捨て容器を用いた弁当を作り、それぞれの部屋の中で食べてもらって下さい。
    • 弁当を届ける時は、まず、外から声を掛けて当該登山者もしくは同行者に正しくマスクを着けてもらいましょう。続いて、弁当を部屋の扉の前に置いてその事を告げ、従業員がその場を離れた後で、ドアを少しだけ開けて弁当を取ってもらいましょう。飲み水などを渡す場合も同様の手順になります。
    • 従業員と登山者が直接会ったり手渡したりすることは絶対に避けて下さい。

  8. 感染が疑われる登山者に接する方は充分な自己防御をして下さい。
    • 従業員がその登山者と直接接することは極力避けるべきですが、どうしても直接対応しなければならなくなった場合は、防御具の着脱に習熟した一人の方だけが会うようにしましょう。
    • 使用する防御具は、全て使い捨ての「マスク・手袋・袖付きエプロン・フェイスシールド」です。これらは登山者一人に対して1組使用するのではなく、その登山者に1回接する毎の使い捨てとご理解ください。つまり、同じ登山者に3回接する場合にはこれらの使い捨て防御具が3組必要ということになります。

  9. 従業員が部屋に入る時は、先にその登山者・同行者にマスクを着けてもらいましょう。
    • その登山者にも同行者にも常時マスクを着けてもらっておくことが理想ですが、呼吸器症状がある方にそれを強要することはでき兼ねます。従業員が部屋に入らなければならない場合は、まず、登山者にマスクを装着していただき、できれば60~90分間静かに待っていただいた後に入室するのが比較的安全です。
    • 室内に入った際は、必要なもの以外には極力触れないようにしましょう。

  10. 防御具は、装着する時よりも外す時の方が危険であることをご理解下さい。
    • 防御具は、装着する時よりも外す時の方がはるかに危険です。汚染された可能性のある面に素手で触らないように注意して1つずつ外し、1つ外す度に手の消毒をしましょう。全てを外した後は手をしっかりと洗い、さらに消毒もして下さい。
    • 防御具を外す操作はその登山者が居る部屋と一般通路の間のスペース、もしくはその登山者が居る部屋の中でその登山者から2m以上離れた場所で行って下さい。
    • 手技に習熟した者が2人一組となって1人が感染者に対応し、その対応者が装具を外す手技を目・鼻・口を防御したもう1人が2m以上離れた場所から1つ1つ誤りがないか確認しつつ行うのが最も安全です。
    • 使い捨てのものはあらかじめ用意した大きなごみ袋に入れ、他の方が手を触れないようにしっかりと口を縛って捨てて下さい。小さなゴミにするために袋を圧縮しようとすると中のエアロゾルが出てくる危険性がありますので、圧縮はしないようにお願いします。

  11. 十分な自己防御なしでその登山者と接した従業員はすぐに下山させましょう。
    • 充分な自己防御ができずにその登山者と接した従業員は、感染している可能性があります。早ければ数時間後には他の従業員へ感染を拡げてしまうことになります。ご本人も数日後に発病して急激に悪化、最悪の場合、命に係わることにもなりかねませんのですぐに下山してもらって下さい。
    • 下山後は、感染を疑われた登山者のPCR検査の結果等、コロナ感染の有無が明確になるまでは、他の方との接触を避けて下さい。
    • 山小屋全体を守るという視点から、その従業員に対しても、下山までの間は前述の「6」に記載した同行者と同様の扱いをしましょう。

  12. 使用後の部屋は60~90分経過した後に消毒をして下さい。
    • 感染が疑われる登山者が使用した部屋は、登山者が出て行った直後には誰も入れないで下さい。空中のエアロゾルが落ちたと考えられる60~90分後に室内に入るようにしましょう。
    • 清掃には決して掃除機を使用しないで下さい。また埃を巻き上げるような清掃も危険です。消毒用アルコールか0.1%次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を丁寧にして下さい。トイレや洗面所など、その登山者が使用している可能性のある場所もお願いします。それを行うスタッフは必ず使い捨ての「手袋・マスク・袖付きエプロンやフェイスシールド(ゴーグル・保護メガネ)」をつけて行い、ゴーグル・保護メガネを使い捨てにできない場合は、その部屋の中で使用した手袋を脱いだ後、新しい手袋を装着して消毒用アルコールで消毒して下さい。
      * 次亜塩素酸ナトリウム溶液・アルコール消毒液の使用に関する注意事項は【小屋開きの前に】の3を参照してください。

  13. 部屋を消毒できない場合は十分な日数、立ち入りを禁止しましょう。
    • 構造上の問題などで部屋の消毒が無理な場合は十分な日数だけ人の立ち入りを避けるなどの配慮が必要になります。新型コロナウイルスが物の表面でどのくらいの期間感染力を維持するかは、対象物によって異なり不明な部分もありますが、プラスチックの上で72時間後に確認されたとのデータや、他のコロナウイルスでは金属の表面で最長9日生存するという報告もあります。また寒冷地では通常よりはるかに長い間感染性を有するとの報告もあります。

  14. 救助要請の際には必ず新型コロナ感染の疑いがある旨をお伝え下さい。
    • 救助要請をする際には必ず「新型コロナ感染が疑われる要救助者」である旨を山岳警備隊等にお伝えください。ヘリコプターでの救助を担当するパイロット等の隊員は感染対策としての防御具を装着しておく必要があります。充分な自己防御を装着していない隊員が感染者を運搬した場合、運搬後14日間の自宅待機を余儀なくされるのが一般的で、その後の救助活動に大きく影響します。
    • 感染者専用の装備を持つヘリコプターでない限り、感染者を運搬したヘリコプターには消毒等の作業が発生し得ます。必ず救助要請の連絡をする時に感染の可能性があることを先方にお伝え下さい。
以上、現時点で考えられる対応の目安をお示ししました。特殊な環境にある施設ですのであくまでも一つの目安と考えていただき、くれぐれも従業員の方々が感染なさいませんように、また登山活動が感染の蔓延を助長させたと言われないようにご留意いただきつつ、同時に個々のご事情にも合わせてご対応下さい。
 なお、状況は世界規模で刻一刻と変わっています。一方でウイルスに対する研究やワクチン・治療薬の開発も少しずつ進んで行くと考えられます。本稿の内容につきましても今後変更になる可能性があることをご理解下さい。

(2020.06.09)